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概要

今日の音楽・音響体験はさまざまな映像との関わりのなかにある。こうしたなかで音楽・音響研究でも視聴覚的な見地からの研究が試みられるようになった。殊に映画の音楽・音響をめぐる研究は欧米を中心に発達し、近年日本でもさまざまな考察が試みられている。そんななか昨年、早稲田大学演劇博物館に1920年代のサイレント期の映画伴奏譜(「ヒラノ・コレクション(仮)」)が600点以上も収蔵された。これは実際に日本の映画館で使用されていた楽譜資料としては、初めて研究者の前に公にされた資料であり、これまで言説資料に依拠するほかなかった日本のサイレント映画伴奏の研究に新たな可能性を開くものになりそうである。(※1)

本企画はこの資料の登場を機に、映画音楽・音響研究を改めて再考する機会とすべく企画された。まず1日目には、現代のサイレント映画上映の問題をめぐってシンポジウムを開催する。「ヒラノ・コレクション」などの伴奏譜資料の歴史研究のあり方や活用可能性を検討するとともに、作曲や即興演奏など幅広い音楽実践の場となっているサイレント映画上映の可能性を論じる。さらにコレクション内の楽譜を用いて映画『軍神橘中佐』の「復元」演奏を試み、サイレント映画上映を研究と実践の両面から現代の音楽文化として再考することとしたい。また2日目には、近年ようやく始まった日本の映画・音響研究について、サイレント映画に限らず広く多様な観点から議論する場を設ける。2つの研究発表セッションと1つの書評会(長門洋平著『映画音響論:溝口映画を聴く』みすず書房、2014年)を開催する。2日間にわたる議論を通じて、映画の音楽・音響のあり方、そしてこの研究の意味や可能性を多角的に浮かび上がらせることを目指す。

 

(※1)すでに同資料については、2015年2月にも研究報告会が開催されている。

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